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長崎地方裁判所佐世保支部 昭和54年(わ)37号 判決

主文

被告人を懲役一年六月に処する。

未決勾留日数中五〇日を右刑に算入する。

被告人から金一、六七五万円を追徴する。

訴訟費用は被告人の負担とする。

理由

(罪となるべき事実)

宮原一夫(昭和五五年五月一八日死亡)は松浦市長として同市が発注する各種工事に関し、入札参加業者の指名及び入札の執行を管理するなど同市を統轄し、その事務を管理、執行する職務を行つていたものであり、被告人は「宮原一夫後援会」の事務局長をしていたものであり、安東敏之は電気、管工事業等を目的とする株式会社早岐商会の代表取締役として同社の業務を統轄していたものであるが、被告人は、宮原一夫と共謀のうえ、昭和五一年一月一四日ころ、佐世保市天満町二番三号所在料亭「岬」において、安東敏之から、松浦市が将来にわたり発注する市庁舎建設工事及びその他各種工事に関し、前記早岐商会又は安東敏之が指定する業者が右工事を受注することができるよう入札参加業者の指名、入札の執行などについて便宜有利な取計いをされたい旨の請託を受け、その報酬として供与されるものであることを知りながら、安東敏之から別紙犯罪一覧表のとおり昭和五一年二月二八日ごろから同年六月一五日ころまでの間五回にわたり、現金合計三、〇〇〇万円の供与を受け、もつて宮原一夫の前記職務に関し賄賂を収受したものである。

(証拠の標目)(省略)

(弁護人の主張に対する判断)

一  弁護人は、被告人が安東敏之(以下「安東」という。)から受領した現金三、〇〇〇万円は貸与を受けたものであり、贈与されたものではない旨主張する。

しかしながら、被告人の検察官(昭和五四年二月一一日付)及び司法警察員(同月六日付)に対する各供述調書、宮原一夫(同月一一日付)及び安東敏之(同日付)の検察官に対する各供述調書、安東敏之の検察官に対する同日付供述調書抄本、被告人作成の上申書、第六回公判調書中の証人安東敏之の供述部分によれば、被告人が安東から判示認定のとおり五回にわたり受領した現金三、〇〇〇万円は、安東から貸与されたものではなく、宮原一夫(以下「宮原」という。)のために贈与されたものであることは明白である。

押収してある覚書一枚(昭和五四年押第六七号の二)には「決済時期は別紙の通り拙者が委任を受けた松浦市庁舎新築工事入札完了後三十日以内と致します。」との記載がなされていることが認められるけれども、安東敏之の検察官に対する同年二月一一日付供述調書及び同日付供述調書抄本並びに第六回及び第七回公判調書中の証人安東敏之の各供述部分によると、右覚書は安東がその文面を考案して記載したものであるが、右文書は三、〇〇〇万円の授受が真実、貸与の趣旨であることを表わすべく記載したものではないことが認められ、また被告人の検察官(同日付)及び司法警察員(同月九日付)に対する各供述調書、被告人作成の上申書によると被告人は右覚書を安東から渡され、これに署名押印した際にも右文言に格別の注意を払わなかつたことが認められるから右覚書の記載は前記認定を妨げるものではなく、現金三、〇〇〇万円を貸与の趣旨で受領した旨の第一回、第三回、第八回、第一二回及び第一八回公判調書中の被告人の各供述部分並びに被告人の当公判廷における供述は前記各証拠に照らし措信し難く、弁護人の主張は採用できない。

二  弁護人は、被告人及び宮原が安東から請託を受けた事項は市庁舎建設工事受注に関してのみであつて、その他の各種工事は含まないものであるところ、松浦市においては、当時市庁舎建設を希望している段階にすぎず、これに不可欠な自己資金の準備積立等も未定の状態にあつたのであり、仮に右建設計画が現実化しても市長が独断で工事の発注、契約をなし得るものではないし、当時宮原は次期市長選挙に立候補を予定していたにすぎないのであるから、宮原において市庁舎建設工事発注、契約についての職務権限が現実化し、請託事項が実現するのは、その蓋然性、影響力の点で余りに不確定要素が大きく、刑法一九七条一項後段の「職務ニ関シ」の要件を欠くと主張する。

しかしながら、前記証拠の標目記載の各証拠によれば、被告人及び宮原が安東からの判示のとおりの請託を受けて現金三、〇〇〇万円を収受した時期に宮原が松浦市長の職にあり、同市発注の各種工事に関し入札参加業者の指名及び入札の執行、管理の職務権限を有していたことは明白に認定しうるところ、宮原が右のとおりの一般的職務権限を有する地位にあつた以上、その職務権限の具体的行使が将来の事情にかかる場合であつても受託収賄罪の成立に何ら妨げとなるものではないから、市庁舎建設計画の進捗の程度は何ら問題とならず、右各証拠によれば、宮原は昭和四三年七月から二期にわたり松浦市長選挙に当選してその職にあり、本件犯行当時にも既に昭和五一年七月に実施が予定されていた市長選挙に立候補する決意を固めており、現に右市長選挙に当選していることが認められるのであるから、次の任期も宮原が市長に就任する相当の蓋然性があつたものであり、宮原が市庁舎建設時においても前記の職務権限を行使する地位にある蓋然性がある以上、その地位の就任に不確定要素があるとしても、これが受託収賄罪の成否に何ら影響を及ぼすものでないことはいうまでもない。弁護人の前記主張は失当というべきである。

なお、被告人の検察官(昭和五四年二月一一日付、同月一三日付)及び司法警察員(同月六日付)に対する各供述調書、第六回及び第七回公判調書中の安東敏之の供述部分、安東敏之(同月一一日)及び宮原一夫(同月付、同月一二日付)の検察官に対する各供述調書並びに安東敏之の検察官に対する同月一一日付供述調書抄本によれば、安東の請託にかかる事項は、市庁舎建設工事受注に主たる関心があつたものではあるが、そのためには早岐商会が松浦市発注の各種工事を受注、実施して実績をつくる必要があつたこともあつて、市庁舎建設工事のみならず、その他の各種工事の受注も請託の内容事項に含まれていたことが明らかに認められるのであり、被告人の当公判廷における供述、第一回及び第八回各公判調書中の被告人の供述部分のうち右に反する部分は措信できず、前記覚書に市庁舎建設工事以外の各種工事についての記載がないことも何ら右認定を妨げるものではない。

三  弁護人は前記弁護人の主張二のとおり、本件の請託の内容となつている事項は余りに不確定要素が多く、請託の内容たりえないと主張する。

しかしながら、請託は一定の職務行為の依頼として特定されておれば足り、その依頼の趣旨が実現されうるものであるか否かは何ら問題とならないのであるから、弁護人の主張は失当というべきである。

四  弁護人は、被告人が受領した金三、〇〇〇万円は、宮原の選挙運動のために提供された政治献金にすぎないのであるから賄賂性を欠くと主張する。

しかしながら、判示認定のとおり右金三、〇〇〇万円は、宮原が請託を受けて職務行為をなす報酬として供与されたものであつて、その対価性は明白であるから、弁護人の右主張は到底採用できない。

五  弁護人は、被告人は宮原に使役されて賄賂金を受領したにすぎないのであり、身分のない故意のある道具というべきであるから、道具たる被告人は無罪である旨主張するけれども、証拠の標目記載の各証拠によれば、被告人は主導的かつ積極的に本件犯行に関与した共同正犯であると認められるのであるから、弁護人の右主張は採用できず、刑法六五条一項の適用については共同正犯は含まれないとの見解は当裁判所の採用するところではない。

(法令の適用)

被告人の判示所為は、行為時においては包括して刑法六五条一項、六〇条、昭和五五年法律第三〇号による改正前の刑法一九七条一項後段に、裁判時においては包括して刑法六五条一項、六〇条、右改正後の同法一九七条一項後段に該当するが、右は犯罪後の法令により刑の変更があつたときにあたるから、同法六条、一〇条により軽い行為時法の刑によることとし、その所定刑期の範囲内で被告人を懲役一年六月に処し、同法二一条を適用して未決勾留日数のうち五〇日を右の刑に算入することとし、被告人が判示犯行により収受した賄賂は没収することができないので同法一九七条の五後段により、その価額のうち金一、六七五万円を被告人から追徴することとし、訴訟費用については、刑事訴訟法一八一条一項本文により全部これを被告人に負担させることとする。

(追徴金額算定の理由)

被告人が宮原と共同して収受した現金三、〇〇〇万円は後記認定のとおり全て金融機関に預金されたので没収することができないものとして追徴すべきであるが、数人が共同して賄賂を収受したときには、各自が現に享受した利益の範囲においてこれを追徴すべきものであるから、以下被告人において享受した利益の範囲について検討する。

1  別紙犯罪一覧表の金一、〇〇〇万円について

被告人の検察官(昭和五四年二月一三日付、同月六日付)及び司法警察員(同年二月九日付、同月一六日付)に対する各供述調書、親和銀行志佐支店長(同月六日付((証拠番号甲一一八号のもの))、同月七日付〈〈証拠番号甲一三二号のもの)))及び松浦農業協同組合組合長作成の各捜査関係事項照会回答書、親和銀行志佐支店長作成の同月二日付捜査関係事項照会回答書抄本によれば、被告人は、昭和五一年二月二八日ころ受領した金一、〇〇〇万円を同年三月一日親和銀行志佐支店に被告人が代表取締役を務める有限会社日章ペイント工業(以下「日章ペイント」という。)名義の普通預金口座を開設して預金し、同月五日これを全額引出し、(一)同日、そのうち金二〇〇万円を松浦農業協同組合の被告人名義の営農資金口座に預入れ、以後逐次自己のために費消し、(二)同月一五日、その余のうち金二〇〇万円は親和銀行志佐支店に日章ペイント名義の普通預金口座を開設して預金し、そのうちの金一七五万円は逐次被告人において日章ペイントのために使用したことが認められる。

2  同表2の金五〇〇万円について

被告人の当公判廷における供述、第九回公判調書中の被告人の供述部分、大浦盛秀の当公判廷における供述、第一五回公判調書中の下條義夫の供述部分、第一六回公判調書中の証人吉永哲雄の供述部分、吉永哲雄の司法警察員に対する供述調書、検察官作成の捜査報告書、親和銀行御厨支店長作成の捜査関係事項照会回答書(三通)及び前記1掲記の各証拠によれば、被告人は、昭和五一年三月三〇日ころ受領した金五〇〇万円を、同月三一日親和銀行御厨支店の神田譲二名義の普通預金口座を開設して預金し、同年四月一日、その全額を引出し、(一)同月五日、そのうち金二〇〇万円を親和銀行志佐支店に日章ペイント名義で当座預金口座を開設して預金し、以後被告人において日章ペイント又は自己のために全部使用したこと、(二)その余の金三〇〇万円については、被告人はこれを同月八日、同銀行同支店の被告人名義の普通預金口座(口座番号〇四一四五九)に預金していたところ、被告人の友人吉永哲雄(以下「吉永」という。)が代表取締役を務める有限会社吉永組(以下「吉永組」という。)は下條義夫(以下「下條」という。)に対して金一五〇万円の消費貸借債務を負つていたものの、弁済期である同月二〇日に至つてもその金策がつかなかつたため、同日、吉永からの依頼に応じて被告人は、下條に対し金一五〇万円を吉永組に代わつて支払うこととし、同銀行同支店の前記普通預金口座から金一五〇万円を出捐し、同支店長振出の額面金一五〇万円の小切手を下條に交付することによりその弁済をしたことが認められる。

もつとも右(二)の金一五〇万円の代位弁済については、被告人の当公判廷における供述、第一八回及び第一九回公判調書中の被告人の各供述部分中には吉永が以前宮原に金一五〇万円を貸与していたことから、被告人が吉永組の債務を代位弁済することにより宮原の吉永に対する債務を消滅させる趣旨で前記のとおり被告人が下條に金一五〇万円を支払つた旨の供述部分があり、第一六回公判調書中の証人吉永哲雄の供述部分はこれに副うものであり、また第八回公判調書中の被告人の供述部分、被告人の検察官(昭和五四年四月六日付)及び司法警察員(同年二月一六日付)に対する供述調書には、被告人は宮原一夫後援会活動資金とするため吉永より借受けていた金一五〇万円を昭和五一年四月二〇日に前記被告人名義の普通預金から吉永に弁済した旨の供述記載があるけれども、被告人の当公判廷における供述、押収してある吉永組関係書類一袋(昭和五四年押第六七号の七)によれば、吉永組の被告人に対する債務は昭和五一年五月三一日現在で金一五〇万円と計上され、昭和五二年五月三一日までに金一〇〇万円が被告人に弁済されていることが認められるところ、被告人の当公判廷における供述、第一九回公判調書中の被告人の供述部分によると、昭和五一年三月ころ以降は、下條に対する金一五〇万円の前記代位弁済のほかには吉永組に対して同金額の長期間の債権を発注させるような金員貸付等はなかつたことが認められ、また大浦盛秀の当公判廷における供述によると、大浦盛秀は吉永組の社員として、前記のとおり下條に金一五〇万円を弁済するにつきその資金繰にあたり、被告人の右代位弁済に関与し、昭和五一年九月からは吉永組の代表者となつたものであるが、同人は、被告人が下條に金一五〇万円を代位弁済したことにより吉永組は被告人に同額の債務を負つたと認識していたところ、昭和五六年に至つて初めて吉永から、右代位弁済以前に吉永の宮原に対する債権が存在していた旨聞き知つたことが認められることなどからすると、前記認定に反する前記各証拠は措信できないというべきである。

3  同表3の金五〇〇万円について

被告人の当公判廷における供述、被告人の検察官(昭和五四年二月一三日付、同年四月六日付)及び司法警察員(同年二月九日付、同月一六日付)に対する各供述調書、神田譲二の検察官に対する供述調書、親和銀行志佐支店長(同月七日付((証拠番号甲一三二号のもの)))及び同銀行御厨支店長(三通)作成の各捜査関係事項回答書によれば、被告人は、昭和五一年四月二〇日受領した現金五〇〇万円を、同日、親和銀行御厨支店の前記神田譲二名義の普通預金口座に預金し、同年七月一二日に神田譲二をしてそのうち金四〇〇万円の払戻しを受け、これを同日、同銀行志佐支店に神田譲二及び神田真理子名義で各二〇〇万円の定期預金として預入れさせてこれを保管してきたが、その後解約して自己の用に供したことが認められる。

被告人の当公判廷における供述、第八回、第九回、第一二回及び第一八回公判調書中の被告人の供述部分によると、昭和五一年四月二〇日ころに受領した現金五〇〇万円は同月二一日ころ石黒角一に渡したものであり、同月二〇日に親和銀行御厨支店の神田譲二名義の普通預金口座に預入れた五〇〇万円は、そのころ知人木場正雄(以下「木場」という。)から貸付金の弁済として受領したものであるというのであり、第一〇回公判調書中の証人木場正雄の供述部分もこれに副うところがあるけれども、右のとおりであれば被告人はその旨捜査段階において供述していてしかるべきであるのにそのような供述は全く窺われず、公判において初めて右のとおり供述しているのであり、その弁済の経緯についても、当初は木場が送金した旨供述しながら後には持参した旨供述するなどあいまいであり、前記証人木場正雄の供述部分と対比してみると、木場に対する金員貸付の経緯、その後の事情について、双方の供述とも不自然な点が見受けられるのであつて、前記各証拠に照らすとこれらは容易に措信し難いといわなければならない。

4  同表4、5の各金五〇〇万円について

(一)  第八回、第一二回及び第一八回公判調書中の被告人の各供述部分、被告人の検察官(昭和五四年二月一三日付、同年四月六日付)及び司法警察員(同年二月一六日付)に対する各供述調書並びに親和銀行志佐支店長作成の同月六日付捜査関係事項照会回答書(証拠番号甲一一八号のもの)及び同月二日付捜査関係事項照会回答書抄本によると、被告人は昭和五一年六月一〇日ころ及び同月一五日ころに受領した現金各五〇〇万円を、それぞれその翌日ころ親和銀行志佐支店の被告人名義の普通預金口座(口座番号〇四一四五九)に預金し、同年七月一二日、右口座から三〇〇万円を振替えて被告人名義で同銀行同支店に定期預金として預金し、これを保管して現在に至つていることが認められる。

(二)  次に、被告人の検察官に対する昭和五四年二月一三日付供述調書、柿山英博の司法警察員に対する供述調書、検察官作成の捜査関係事項照会書(九州相互銀行松浦支店長宛のもの)謄本、九州相互銀行松浦支店長及び親和銀行志佐支店長(同月七日付((証拠番号甲一三二号のもの)))作成の各捜査関係事項照会回答書、押収してある総勘定元帳一綴(昭和五四年押第六七号の八)によれば、被告人は、昭和五一年七月四日、衣料品販売店を経営していた柿山英博(以下「柿山」という。)から手形決済資金二五〇万円を至急融資してほしい旨依頼されてこれを承諾し、同月五日、親和銀行志佐支店の前記被告人名義の普通預金口座(口座番号〇四一四五九)から金二五〇万円引出してこれを弁済期を定めずに柿山に貸し渡し、柿山はこのうち金二四八万円を九州相互銀行松浦支店に入金して京都丸善ほか五社に対する支払手形合計金二四八万五三九五円の決済にあてたこと、その後昭和五四年二月一六日ころまでに、柿山は、合計約二〇〇万円を被告人に右貸付金の弁済として支払つたことが認められる。

被告人の当公判廷における供述、第一八回公判調書中の被告人の供述部分は、前記柿山に対する金二五〇万円の交付は、柿山が「松浦市を明るくする会」の責任者として宮原一夫を支援、活動していたことから、その活動資金の精算としてなしたというものであり、被告人の検察官(昭和五四年四月六日付)及び司法警察員(同年二月一六日付)に対する各供述調書、第一七回公判調書中の証人柿山英博の供述部分もこれに副うものではあるが、右は前記各証拠並びに検察官作成の昭和五六年五月二三日付及び同年九月四日付各電話聴取書に照らし措信できない。

以上のとおりであるから、1(一)の金二〇〇万円、同(二)のうち金一七五万円、2(一)の金二〇〇万円、同(二)の金一五〇万円、3のうち金四〇〇万円、4(一)の金三〇〇万円、同(二)の金二五〇万円、以上合計金一、六七五万円を被告人において享受した利益と認めるべきである。なお、弁護人は右のうちの一部につき、被告人が従前から宮原一夫後援会事務局長として活動するにあたり、被告人の出捐においてその諸経費を立替え支払つていたことから、その立替金の清算としてこれを受領した旨主張するけれども、そうであるからといつてこれを被告人において享受した利益と認める妨げとなるものでないことは明らかである。

被告人及び宮原の共同収受にかかる賄賂金三、〇〇〇万円のうち、その余の金一、三二五万円については記録中の関係各証拠を総合して検討するときは、未だ被告人において享受した利益と認めるに足りない。

従つて、被告人からは金一、六七五万円を追徴すべきである。

(量刑の理由)

本件は判示のとおり、松浦市発注の工事の入札についての受託収賄の事案であるが、その請託を受けた工事は、松浦市庁舎建設という大規模な工事のみならず、その他の広範な工事をも対象としたものであり、収受した賄賂金も三、〇〇〇万円という異例の多額なものであつて、極めて重大な涜職事犯である。入札制度の適法、公正な運用は、公金の支出を伴う地方公共団体の締結する工事請負契約の適正さを確保するうえで不可欠であることはいうまでもなく、本件犯行はこれに対する市民、関係者の信頼を著しく損ねたものである。被告人は、主導的かつ積極的に犯行に関与しているのであり、しかもその動機は、被告人には公職選挙法違反による二度の罰金前科がありながら、宮原のための選挙運動のいわゆる裏資金を得るべく右犯行に及んだというものであり、また結果において被告人自身多額の利益を得ていることも看過し難い。更に被告人は、賄賂金は贈与を受けたものでなく貸与されたものであるとし、またその使途の一部につき自己の利益のために使用したのではないと供述するなどして、自己の刑責を軽減すべく敢えてこれらの事実を争つているのである。これらの事情に徴すると被告人の刑責は重大であり、被告人は宮原のために本件犯行に及んだこと、市庁舎建設工事入札前に本件が発覚したことにより宮原は市長を辞任し、この点については請託の趣旨が実現されなかつたこと、被告人は安東に対し金三、〇〇〇万円を分割して返還する旨約し、既に一部は履行されていること、被告人には前記前科のほかには前科前歴はなく、これまで地域社会のため努力してきたことなど被告人に有利な諸般の事情を考慮しても、主文のとおりの刑を量定するのが相当である。よつて、主文のとおり判決する。

(別紙)

犯罪一覧表

〈省略〉

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